Locotory | Relux広報ブログ

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【Reluxカンファレンス2018】老舗旅館が集結、愛され続ける旅館であるためのこだわりとは?

全7回の連載でお届けする「Reluxカンファレンス2018」のレポート。第6回は、テーマ「これから先も選ばれる旅館創り、あり方について」の前編をお届けします。

 

登壇者

食べるお宿 浜の湯 代表取締役社長 鈴木 良成 氏

時音の宿 湯主一條 第20代目当主 一條 一平 氏       

金谷ホテル観光株式会社 代表取締役社長 金谷 譲児 氏

 

モデレーター

株式会社Loco Partners 取締役 塩川 一樹

 

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塩川—本日はお越しいただき、ありがとうございます。テーマを「これから先も選ばれる旅館創り、あり方について」と題し、旅館のあるべき姿について議論していたきたいと思います。

私自身も宿泊をさせていただいた経験があり、「旅館」と一言でいっても三者三様だと感じています。

お部屋食を貫いている食べるお宿 浜の湯の鈴木さん。有形文化財の食事処にホテルで培ったノウハウを織り交ぜ、和洋の接客スタイルを確立された時音の宿 湯主一條の一篠さん。そしてフレンチをお箸で頂くという真新しさを取り入れている金谷ホテルの金谷さん。

それぞれの旅館をつくっている軸となる考え方やコンセプトについて教えていただけますでしょうか。

 

部屋出しを貫き続ける理由とは

鈴木 氏—私どものこだわりは、夕食も朝食も部屋出しを、そして完全なる担当制を貫いてきたところにあるでしょう。お出迎えから始まり、夕食のご提供、そして翌朝の朝食のご提供も同じスタッフが担当をする。最後お帰りになるときには、そのスタッフが玄関先で手をふって見送る。このスタイルこそ旅館の文化だと思っており、この業界に魅力を感じたときから何十年も続けています。

全世界を見渡した時に、1人のスタッフが1顧客に付き添って最初から最後まで接客をすることは、ほとんどありえません。しかし、私は「旅館文化 = 日本文化」の象徴だと思っているので、それを絶対に継承していきたいと考えています。

ただ貫き通すことによって、よく言われている労働時間の問題など、様々な問題が起こってきます。そのため、この完全担当制を極力維持しながら、労働時間を短縮する努力は一生懸命にやっているところです。

完全担当制を設けることによって、スタッフが浜の湯という宿で働いていくうちに、ものすごい輝きを放つようになります。お客さまにとってかけがえのないスタッフになれるからでしょう。

また完全担当制だからこそ、お客さまもそのスタッフに対して心を開いてくださいます。今まで接客を受けて、そこほど心を開くことがなかったお客さまが、どんどんリピートしてくれるようになりました。

そのような「輝ける接客」をうちで一生懸命働いているスタッフには感じさせてあげたいと思っています。それを実現するためにも、完全担当制の部屋出しを徹底しています。

旅館という和室空間の中で、低い座卓と低い座椅子に座っているお客さまに対して、凛と構えて、跪坐の姿勢で自由自在にお料理を提供します。そんな立ち振る舞いは、今でこそ見る機会が少なくなっているでしょう。特に、若いスタッフがそのような振る舞いをすると、本当にお客さまは感心してくださいます。そんな姿も浜の湯ならではの文化の一つだと思います。

 

一條 氏—部屋出しだと、お客さまのタイミングを見計らうことが大変ではないのでしょうか。お客さまは待たされることを苦手とし、かといって早く出されてしまうと「なんで?」という心境になりがちなので、その辺りはどう調整されているのですか。

 

鈴木 氏—浜の湯で教えていることは、和室における完璧なマナーです。ふすまの開け方からお辞儀の仕方、そして料理提供とその説明の仕方まで教えています。

その先は自分が担当するお客さまに対してどのように接客をするかということになるので、それぞれが異なります。そのため、1人1人のスタッフに対して「自分の接客スタイルは自分で構築しなさい」と指導しています。

その中で最初は1部屋だけを担当していたスタッフが、徐々に慣れてきて2部屋、3部屋を担当する。こうして一人前に育っていきます。そして、一緒に働いているスタッフが入社したばかりのスタッフに対して、的確に指導をしてくれているおかげで、お互いがしっかり育つようになりました。

また、私たちはレストランを構えている旅館に比べ、料理を作り終えてから提供するまでの間にどうしても時間がかかってしまう。そして、3分経つと料理は冷めると言われているため、冷めても美味しい料理を提供するようにしています。

他の旅館ではレストランで食事を提供できる部分も、私どもの部屋出しスタイルだと難しいこともあります。ただそこの難しさを乗り越える努力を、色々と仲間と考えながらやってきました。本当の意味で完璧かと言うと、まだまだその域には及んでいないでしょう。それでも最良の部屋出しができるような旅館になりたいと常に思っています。

 

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塩川—ありがとうございます。一條さんはどちらかというと程よい距離感を保つスタイルだと思うのですが、目指す旅館像について教えていただけますか。

 

国登録有形文化財を食事処へ

一條 氏—我が家は先祖代々、旅館を経営しており、私が幼少の頃から常に満室でした。旅館は旅館部と湯治部からなっており、その湯治部は国登録有形文化財にもなっている木造建築なのですが相部屋が当たり前でした。それにもかかわらず、満室なんですね。というのも、私が育った時にちょうど東北新幹線が走り出したからでした。

そんな幼少時代を過ごした後、東京に出てホテルに勤めていました。13年ほど東京におり、しばらくして帰ると、「なにかおかしい」と思ったんですね。今から19年前に戻ったのですが、その時にはもう閑古鳥でした。土日はいっぱいになるにしても、平日は全然話になりません。

ちょうどその頃、娘が生まれたのですが、私の妻も旅館を手伝っていたため、自宅で子供をあやすわけにはいきませんでした。そのため、当時は使用していなかった湯治部でスタッフが代わる代わる子供を抱っこして、あやしてくれていました。その中でこういう風にやったらお客さまが喜んでくれるのにっていうアイディアを思いついては、一冊のノートにまとめてくれていたのです。

父が亡くなって私の代になった時に、湯治部で食事をご提供したらお客さまが喜ぶんじゃないか、という提案をもらったのですが、開口一番に私は猛反対しました。「こんなボロボロの場所でご飯を提供できるのか」と。しかし、周りの人に聞いてみたところ、私が怒られることになり、結局やることになりました。なんとも立場がなかったのを今でも覚えております(笑)

この案は全て女将が提案してくれたのですが、この湯治部を食事処にするという根底には自分たちが泊まりたい宿にするという想いがありました。今でこそ改装して、なんとかやっていますが、冬場は本当に寒く、夏場は扇風機では話にならないほどに暑いんですね。

そういう場所だったので、どのように食事処にするかという問題がありました。私はホテルのレストランが好きなので、あたかもホテルのレストランに来たかのような心地で、リラックスしながらお食事をお楽しみいただきたい、と思っていました。ただ、できるだけ厨房から近いところに導線を配置しても、温かいものが外気にふれて冬場はすぐに冷めてしまうのです。

食べているところは暖かいのですが、厨房から食事処までの廊下は外気と同じ気温のため、できてから提供までに1分もかかっていないにもかかわらず、お客さまから冷えているというお言葉を頂戴する。それでどうしたかというと、蓋をつけたり、お皿を温めたり、いろいろと試行錯誤をしました。しかし、やはり外気にふれるとダメでした。

結局、早い人に合わせた方がいいのか、それとも遅い人に合わせたほうが良いのか、などとにかくお客さまとコミュニケーションをとることで、理想としていたホテルのレストランと旅館、双方のいいところを融和させることができました。

 

塩川—自分本意でありながら、結果的にはお客さま視点で考える。一條さんのホテルで築き上げたキャリアと女将の旅館への想いが詰まっている旅館ということですね。

 

一條 氏—そうですね。

 

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塩川—ありがとうございました。では、次にお箸で食べるフレンチに象徴される金谷さんの目指した旅館スタイルを伺いさせていただきます。

 

ホテルと旅館の融合を目指し、「らしさ」を確立

金谷 氏—金谷ホテルは全てスタイルが異なるので、鬼怒川金谷ホテルの話をさせていただきます。こちらはもともと、完全に食事を部屋出ししていました。しかし、次第に年配のベテランスタッフがお部屋に運ぶことができなくなってしまい、また新しいスタッフだと慣れるまでに時間がかかってしまい、難しい。

そこで、部屋出しを一部の客室のみにして、あとはダイニングで召し上がって頂くことにしました。しかし、テレビを見ながらのお食事が習慣になっているお客さまにとって、2時間半という食事だけの時間が持たない、ということもしばしば。

そこで、会話が生まれるようにしようと思い、ダイニングを改修することにしました。その時に、食事の出し方も工夫するようにしました。最初にアミューズと食前酒をロビーラウンジでお出ししてから、ダイニングに移っていただく。場所を変えると、ちょっと会話が生まれるんですね。あとは、食事を出す際にストーリーも添えてお出ししていき、最後のデザートをまたロビーラウンジでお楽しみいただく。そうして少し空気感を変えていくという工夫をしました。

私はもともとホテルに勤めていたこともあり、ポジショニングとしては旅館に寄りすぎてもいけないし、ホテルに寄りすぎてもいけない、という想いが強くあったので、一番いいポジションを目指すことにしました。

私たちの場合、女将制度がないので各現場のスタッフに目指したいホテル像や禁止事項、推進事項などを書いてもらい、それを実現するためにどのような仕組みが必要かを話して、少しずつかたちにしていきました。

 

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塩川—ありがとうございます。制約条件がありながらも、工夫をすることで独自のスタイルを築き上げるというような発想がとても多いのですね。

お話しをお伺いして、三者三様でありながらも似ている部分もあると感じました。お三方はお付き合いも長いかと思うのですが、それぞれのいいところについてお聞かせいただけますか。

 

三者三様のこだわり、それぞれが尊敬するポイントとは 

鈴木 氏—まず一條さんについてです。私は目星をつけた旅館に宿泊するのですが、必ずそこの経営者に電話をして「こういうものです。ちょっと勉強させて下さい」と言って、よく勉強にいっています。

そして、そこの経営者と話すだけでなく、夕食の準備やその提供の流れを厨房で見せてもらうようにお願いしているのですが、一條さんのところに宿泊した際にもそうさせてもらいました。

 

一條 氏—厨房にずっといるんですよ。自分たちのご飯の時間になったときも、ちょっと見せてくださいと言って。

 

鈴木 氏その中で、常識を覆す取り組みが多くありました。昔の旅館の常識として、例えば固形燃料で温めて出す鍋があります。当然その鍋にのっている野菜は、火をつける前から盛り付けられているため、野菜がしなってしまうことが常でした。ところが、一條さんのところはスタッフが冷蔵庫を開けて、すぐに鍋に盛り付けできるようレシピが書いてあって、それに倣い、お客さまのところに持っていくんです。なので、しゃきしゃきな野菜の鍋をお客さまに提供することができる。 

また、お客さまから地酒の注文が入ると、普通飲み物を作る担当がいるのですが、一條さんのところはスタッフが自らが作り、提供までされる。さらに、普通の旅館はフロントがあるのですが、一條さんはフロントがありません。フロントが無いことによって、例えばチェックアウトしたいというお客さまがやってきても、フロントが無いからどこへいっていいかわからないのです。すると、フロントの周りにいるスタッフがお客さまのところへ近づき、ソファで待ってもらうように伝えてから、会計をすませる。お客さまの手を煩わせずに、やるべきことをしっかりと行う。これまでこんな宿を見たことがないよ、と驚くわけです。

 

塩川—鈴木さんがおっしゃられていること、わかります。私も宿泊させていただいた際に、常識にとらわれないサービスに驚きました。

 

金谷 氏—実は、私たちのスタッフも1ヶ月ほど一條さんのところに預かっていただいたのです。

 

一條 氏—金谷さんが改装工事を行う際、3人の方にお越しいただきました。

 

鈴木 氏—私がお邪魔したときに金谷さんのスタッフの方がいたので驚きました(笑)

 

金谷 氏—僕がすごいなと思うのは、一條さんの強靭な胃袋です。3〜5軒、平気ではしごするんですよ。僕は1〜2軒で終わってしまうので、味わっている量が違います(笑)

 

塩川—胃袋が違うと。大切なポイントですね(笑)では、少し話を戻させてください。金谷さんのいいところはいかがでしょうか。

 

鈴木 氏—鬼怒川金谷ホテルに家族で宿泊した際に感じたことは、やはり人間は幼少時代から培ってきたセンスがあるということです。所々にセンスの良さが感じられたというか、常に本物に触れてきたからこそできる空間作りがされていました。私がどれほど求めても、おそらく感じることができない部分をしっかりと感じていらっしゃる。だから、私たちはそれを盗むしか無いのだと思いましたね。

 

塩川—センスですか。一條さんからみて、いかがでしょうか。

 

一條 氏—私も家族で泊まりに行かせていただきましたが、やはりお爺様の代からジョンカナヤをはじめ、圧倒的な企業ブランディングができていたのだと感じました。小さい頃の写真を拝見しても、いつから履いているのか革靴のブーツを履いていたり、ズックではなく必ずスニーカーであったり。

当時から持っているもの、触れているもの、そもそもが私と違う、そう思いました。歴史によって築かれた伝統もありますが、金谷さんの場合はそれにプラスして、育った環境がブランディングに影響している。これはもう叶いません。

 

塩川—ありがとうございます。それでは、鈴木さんのいい所について、一條さんから教えていただけますか。

 

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一條 氏—最初ご本人でもおっしゃられていましたが、本当にスタッフ一人ひとりの部屋出しのスキルの高さには驚きを隠せませんでした。毎回絶妙なタイミングで持ってきていただけるんです。どこかにカメラでもついているんじゃないんか、というほどに。

また子どもたちと行ったときは、大人の会話ではなく、子どもたちに合わせてくれるのです。それまで大人に合わせた対応ばかりを受けてきたので、この時に子どもへの目配りや年齢にあったことば遣いが大事だと学びました。

 

塩川—私も鈴木さんにお話を伺った際に、感動したことがあります。例えば、朝食前に朝茶をお出しするという昔ながらの旅館の風習を守っていたり、お電話をした際のコール数でお客さまのコンディションを推し量ったり。

 

鈴木 氏—朝茶は、昔ながらの旅館文化の1つだと思っており、朝一番にお客さまのもとへ淹れたてのお茶とそのお茶に合う梅干しといったようなおつまみを一緒に持っていくことでお客さまとのコミュニケーションがとれるようになります。やはり昔からの旅館は、スタッフがお客さまとの接点をどれだけ作れるかというのが、勝負だと思います。

ただそれはお客さまに応じて対応しており、朝茶を出さずに、朝食をセットしに行くこともあります。浜の湯で働いているスタッフは私よりも賢い子たちなので、そのあたりを自由にやってもらうことでいい方向にいっていると感じています。

 

塩川—お客さまの言動や表情をみて、臨機応変に対応するということを当たり前にされていらっしゃるような印象がありますね。先ほど、一條さんのお話にもあったお子さまと同じ目線で話すということも、一般的なコミュニケーションとしてはお金を出す大人に合わせなければという意識が無意識に働いてしまうのではないかと思うのですが、浜の湯さんではお子さまに話しかけたほうがご両親が喜ぶという判断なのでしょうか。

 

鈴木 氏—その朝茶を持っていく時、お父さんやお母さんよりも、真っ先に子どもたちが声をかけてくれるんですね。なので、そういったところへも配慮していきたいと考えています。

 

金谷 氏—あと、私がすごいと思ったことは一般的にはあまりないのですが、毎回東京に調理長と一緒に上京してきて、食事を一緒に召し上がっていることでしょうか。

私も料理長がここに行きたいと言った際には、連れて行くことはありますが、毎回というのは驚きです。

 

塩川—それはなにか、お客さまのトレンドを知るなどの意図があるのでしょうか。

 

鈴木 氏—そうですね。東京にくれば、やはり流行の先端を走る料理がどういうものかを学ぶことができるので、それを感じてもらいたいという想いがあります。また、色々なところへ一緒に行くことで「これはうちの部屋出しで十分に使える」とか「これは難しいけど、部分的であれば大丈夫」とか、話すことができる。

すると、帰った後で伊豆の食材をつかって似通った料理を作ってくれるんです。そして、それを料理長だけでなく浜の湯で継承できるように献立に反映させていくことで、浜の湯流の料理ができるようにしています。

 

塩川—なるほど、それは鈴木さんと料理長との信頼関係がないとできないのではないでしょうか。

 

一條 氏—それこそ会話が続かないですよね。

 

塩川—この際にお料理のこともお伺いしたいのですが、2ヶ月に1回ほどお料理に変更があるとか。

 

鈴木 氏—基本はそうですね。基本は2ヶ月に1回です。しかし、リピーターの方で1ヶ月に1回お越しいただく方もいらっしゃるので、その際はその方だけ1ヶ月ごとに変更しています。

 

塩川—その際は、やはり以前残されたものなどを記録されているのでしょうか。

 

鈴木 氏—そうですね、基本的にすべて記録をつけています。例えば、前回いらしていただいた時に何が残っていたのか、そしてその量はどうかを顧客カルテに書いています。

 

塩川—そのようにしてお客さまを理解していくのですね。ありがとうございます。